はじめに:Web3の新しいクラウドストレージとの出会い
8月9日、下北沢で開催されたWalrusのイベントに参加してきました。「Walrus」という名前を聞いたことがない方も多いかもしれませんが、これは従来のクラウドストレージの常識を覆す可能性を秘めた、革新的な分散型ストレージプロジェクトです。
Web3やブロックチェーンと聞くと難しそうに感じるかもしれませんが、簡単に言えば「誰か一つの会社に依存しない、みんなで協力して運営するデータ保管システム」のことです。今回は、そんなWalrusの魅力について、初心者の方にもわかりやすくお伝えしていきます。
イベントの様子:エンジニアとWeb3愛好家が集まった熱気あふれる会場
下北沢の会場には約20名の参加者が集まり、Web3に詳しい方からエンジニアの方まで、多様なバックグラウンドを持つ人々が参加していました。イベント後のネットワーキングタイムでは、参加者同士が活発に意見交換をしており、新しい技術への関心の高さを感じることができました。
イベントでは、Walrusの基本的な仕組みから具体的なユースケースまで、幅広い内容が紹介されました。特に印象的だったのは、「改ざんされてはいけないデータの保管」という用途についての説明でした。
Walrusの革新的技術
データの安全性を支える3つの特徴
イベントで紹介されたWalrusの技術的特徴は、従来のクラウドストレージとは大きく異なります。主に3つの特徴が目に止まりました。
- 高い改ざん耐性
- 高いデータ復元能力
- 柔軟な管理機能
これら3つの特徴について順に説明します。
1. 改ざん性の高さ
WalrusはRed Stuffという二次元エンコード方式と暗号学的コミットメントを使い、各スライバー(slivers)1に対して改ざん防止の証明を付与します。
- 各ノードが返すスライバーは、書き込み時に計算されたハッシュ値と照合され、不一致なら即座に判明。
- 読み出し時には再エンコードしてハッシュを再計算し、書き込み時の値と比較するため、途中で改ざんされたデータは受け入れられません。
- 非同期ネットワークでも検証(ストレージチャレンジ)ができ、不正ノードが一時的にデータを偽造することも防ぎます。
これにより、契約書や重要な文書など、絶対に改ざんされてはいけないデータの保管に特化しています。ブロックチェーン技術により、一度保存されたデータは誰も勝手に変更することができません。
2. データ復元能力の高さ
データは細かく分割され、世界中の複数のノード(コンピューター)に分散して保管されます。なんと、保管されているデータの3分の2が失われても、残りの3分の1から完全に復元することが可能です。これは従来のクラウドストレージでは考えられない安全性です。
このデータ復元能力の高さはRed Stuffにあります。
Red Stuffは、プライマリスライバー(行方向)とセカンダリスライバー(列方向)の二重冗長化を行う二次元構造を採用しています。この構造により、欠損したスライバーを復元する際、必要なのは欠損分だけの通信で済みます。つまり、従来の方式のようにファイル全体を転送する必要がなく、低コストでの復元が可能です。
この効率性は、委員会のメンバー交代(エポック変更)時やノード障害の発生時に特に威力を発揮します。旧委員会から新委員会へデータを引き継ぐ際も、部分的なシンボルをやり取りするだけで完全なデータを取り戻すことが可能となっているのです。
3. 柔軟な管理機能について
Walrusの管理機能の柔軟さは、「データを永久に凍結して動かせない」ような仕組みではなく、必要に応じて保存場所や保持期間を変えられる点にあります。これは、Web3の信頼性と透明性を活かしつつ、Web2のような柔軟なストレージ運用も可能にする設計です。

まず、Walrusではファイルそのものはブロックチェーン上には保存されません。オンチェーンに記録されるのは、そのファイルを正しく保存している証明や、保存に必要なメタデータです。実際のデータ本体は、複数のストレージノードに分散して保管されます。これにより、ブロックチェーンの改ざん耐性を保ちつつ、物理的なデータの移動や削除が可能になります。
さらに、Walrusは「エポック」と呼ばれる期間ごとにストレージ担当のノードが入れ替わります。新しいノードにデータが引き継がれると、古いノードはそのデータを削除できます。つまり、契約期間が過ぎたり、保存をやめたい場合は、ノードがデータを保持し続ける義務がなくなるのです。これは、ユーザーがデータ保存の期間や条件を柔軟に設定できることを意味します。
この仕組みにより、ユーザーは「永久保存で料金を払い続けるか、一定期間だけ保存するか」を選べますし、保存場所の変更やノードの入れ替えも自動的に行われます。Web3の透明性と信頼性を維持しながら、Web2クラウドのような自由度も確保しているのが、Walrusの大きな強みです。
具体的な活用例:なぜ契約書に最適なのか?
例えば、企業間の重要な契約書を保管する場合を考えてみましょう。従来のクラウドストレージでは、以下のリスクがありました:
- サービス提供会社のサーバー障害でデータが失われる
- ハッキングによりデータが改ざんされる
- サービス終了によりデータにアクセスできなくなる
しかし、Walrusの分散型ストレージなら、これらの問題をすべて解決できます。データは世界中に分散保管され、ブロックチェーンの仕組みにより改ざんは不可能、そして特定の会社に依存することもありません。
他の分散型ストレージとの比較:Walrusが選ばれる理由

イベントでは、Walrusと競合する他の分散型ストレージサービスとの比較も紹介されました。以下の表で、その違いを見てみましょう。
特性 | IPFS/Filecoin | Arweave | Walrus |
---|---|---|---|
検証可能な保存 | (CID) | (永続性) | (保存証明) |
書き換えの不可逆性 | (ピン解除可) | (不要、証明付き) | |
スマートコントラクト連携 | (間接的) | (限定的) | (Suiとネイティブ) |
アプリ制御への活用 | (要クライアント) | (静的前提) | (保存が条件) |
簡単に説明すると、
- IPFS/Filecoin
分散ファイルシステムの先駆けですが、ビザンチン障害への対応やスマートコントラクトとの統合に課題があります。 - Arweave
永続的なデータ保存を売りにしていますが、動的なアプリケーション対応やブロックチェーン統合に限界があります。 - Walrus
Suiブロックチェーンとのネイティブ統合により、スマートコントラクトとの連携が非常にスムーズで、不変性と証明機能も優秀です。
この比較からも分かるように、WalrusはWeb3 クラウドストレージとして、従来の競合サービスの弱点を補った、より実用的なソリューションとして位置づけられています。
WALトークン:Walrusエコシステムの心臓部
Walrusの分散型ストレージシステムを支えるのが、「WAL」という専用トークンです。このWALトークンは単なる仮想通貨ではなく、Walrusネットワーク全体の運営と成長を支える重要な役割を果たしています。
WALトークンの4つの主要機能
1. ストレージ料金の支払い手段
WALは、Walrusでデータを保存する際の支払い手段として使用されます。興味深いのは、料金が法定通貨ベースで安定するように設計されている点です。これにより、WALトークンの価格が変動しても、ユーザーは安定したコストでストレージを利用できます。
2. ネットワークセキュリティの担保(ステーキング)
WALトークンを「ステーキング」(一定期間預ける)することで、Walrusネットワークのセキュリティ向上に貢献できます。ストレージノードを運営していない一般ユーザーでも、WALをステーキングして報酬を得ることが可能です。
3. ガバナンス(運営参加)
WALトークンの保有者は、Walrusネットワークの重要な決定に参加できます。例えば、ペナルティの水準などのシステムパラメータを、WALの保有量に応じて決定できます。これは「みんなでネットワークを管理する」という分散型の理念を体現しています。
4. デフレ機能による価値向上
WALトークンには「バーン(燃焼)」という仕組みがあり、一定の条件下でトークンが市場から永続的に除去されます。これにより、長期的にはトークンの希少性が高まる設計となっています。
初期ユーザーに優しい補助金制度
WALトークンの配分には10%が補助金として確保されており、これによりユーザーは市場価格より安い料金でストレージを利用できます。これは、新しいサービスを試してみたいユーザーにとって非常に魅力的な仕組みです。
コミュニティ重視の配分設計
WALトークンの配分は、コミュニティを重視した設計になっています。
- 63%がコミュニティに配分(コミュニティリザーブ43%、ユーザードロップ10%、補助金10%)
- 30%が開発チームに配分
- 7%が投資家に配分
この配分からも、Walrusが単なる企業プロジェクトではなく、Web3 クラウドストレージの理念に基づいた「みんなで作るプロジェクト」であることがわかります。
イベントでの質疑応答:課題と今後の展望
イベント中の質疑応答で興味深い質問がありました。「悪質なデータがアップロードされる可能性があるが、それに対する対策はあるのか?」という質問です。
残念ながら、その場では明確な回答は得られませんでしたが、これは分散型システム全般が抱える重要な課題の一つです。
私がホワイトペーパーや公式ドキュメントを読んだ限りだと、Walrusは倫理的に問題のあるコンテンツを自動的に検出・排除する仕組みはプロトコルレベルにはありません。こうした問題への対応は、ノード運営者やフロントエンドのアプリケーション層、あるいは法的枠組みに委ねられるのだと思います。
ただし、データの削除申請は可能です。問題のあるデータを発見された場合はWalrusの運営側に連絡をとるみたいです。
まとめ:分散型ストレージが切り開く新しい未来
今回のイベントを通じて、Walrusが持つ分散型ストレージとしての革新性を強く感じました。特に以下の点で、従来のクラウドストレージを大きく上回る可能性があります:
- データの絶対的な安全性: 改ざん不可能で、大規模災害にも強い
- 脱中央集権: 特定の企業に依存しない安心感
- コスト効率: 高いパフォーマンスと低コストの両立
- 柔軟性: 様々な用途に対応可能な設計
Walrusは、あらゆるデータをオンチェーンで公開、配信、プログラムできる分散型ストレージプラットフォームとして、Web3エコシステムの重要な基盤技術となりそうです。
あなたもWalrusの世界を探検してみませんか?
分散型ストレージの可能性に興味を持たれた方は、ぜひWalrusの公式サイトをチェックしてみてください。また、Suiブロックチェーンについても調べてみると、Web3 クラウドストレージの未来がより鮮明に見えてくるはずです。
技術革新は日々進歩しており、私たちのデータ保管方法も大きく変わろうとしています。Walrusのような革新的なプロジェクトが、より安全で公正なデジタル社会の実現に貢献することを期待しています。
関連リンク:
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- スライバー(sliver)
大きなファイル(blob)を分割してできるデータ断片のこと。Walrusでは1つのファイルを二次元(行と列)で分割して冗長化する。
プライマリスライバー:行方向に分割した断片。
セカンダリスライバー:列方向に分割した断片。
各ノードはプライマリとセカンダリの2つのスライバーを保持しており、読み出しや復旧は、このスライバーを複数ノードから集めて再構築する仕組み。 ↩︎