2025年上半期に Aptos は「手数料の安さ」と「取引(DEX)中心の急成長」を武器に、オンチェーンでの取引インフラ(=“グローバルトレーディングエンジン”)を目指す局面に入っています。この動きのキーとなるのが最近発表・稼働し始めた「Decibel」のような高性能オンチェーン取引エンジンです。
概要(Aptosとは・今期の注目ポイント)
Aptos(アプトス) は、いわゆる「Layer-1(L1)」と呼ばれる基本的なブロックチェーンです。Layer-1 とは「そのブロックチェーン上で直接アプリ(DApp)やトークンが動く土台」のことを指します。Aptos の特徴としては、
- Move というスマートコントラクト言語をコアに採用している(Move は元々 Meta の Diem プロジェクトで開発された安全志向の言語)。Move は資産の扱いが安全に設計されているのが特徴です。
- 高スループット(短い処理時間で多数の取引を処理する力) と 低トランザクション手数料 を目標に設計されている点。
2025年上半期の注目ポイントは、Aptos 上での DEX(分散型取引所)やトレーディングインフラの急成長と、Decibel のようなCEX(中央集権取引所)に匹敵する速度・機能を目指すオンチェーン取引エンジンの登場です。これにより Aptos は「高速かつ安価な取引基盤」としての立ち位置を強めつつあります。
最新の動き・指標(実績・取引量など)
1. DEX(分散型取引所)取引量の急拡大

2025年上半期(特にQ2)で 四半期のDEX取引量が約 90億ドル($9.0B) に達し、前四半期比で +310.3% の大幅増となりました。これはトレーダーが Aptos 上の DEX に集中していることを示します。
(用語メモ)DEX:中央管理者がいない取引所。自分のウォレットのまま流動性プールやオーダーブックで売買します。
2. ステーブルコイン(法定通貨連動トークン)の規模拡大
2025年前半、Aptosのステーブルコイン市場は大きく成長しました。時価総額は前年末の約6億4,890万ドルから約12億ドルへと、85.9%もの伸びを見せています。この急成長の中心には、世界最大級のステーブルコインであるTetherのUSDTと、Circleが発行する信頼性の高いUSDCがあります。
USDTとUSDCの成長
USDTとUSDCはそれぞれ、2024年10月28日と2025年1月31日にAptos上でネイティブコントラクトを展開しました。これにより、USDTの時価総額は81.3%増の8億2,550万ドル、USDCは148.2%増の2億9,140万ドルに拡大しています。両者ともに米ドルと連動した法定通貨担保型ステーブルコインで、Aptos上での送金や分散型金融(DeFi)での利用が活発になっています。
新興の合成ドル型ステーブルコイン「USDe」と利回りトークン「sUSDe」
2025年2月末には、Ethenaが発行する新しいタイプのステーブルコイン「USDe」のブリッジトークン契約がAptos上で稼働を開始しました。USDeはUSDTやUSDCとは異なり、暗号資産と対応するショート先物ポジションを担保とする「合成ドル型」のステーブルコインです。
USDeはステーキングが可能で、ステークすると同価値の「sUSDe」という利回りトークンを受け取れます。sUSDe保有者は、担保となっている暗号資産のステーキング報酬とショートポジションのファンディングレートから収益を得られます。そのため、sUSDeは時間が経つごとに価値が増す設計となっています。
2025年6月末時点で、Aptosには3,940万ドル相当のsUSDeがブリッジされている一方、USDeそのものはわずか87ドル分しか存在しておらず、多くのユーザーが利回りを得られるsUSDeを保有していることがうかがえます。これらのトークンはレンディングプロトコル(Echelonなど)への預け入れや借入、DEX(Thalaなど)での流動性提供に使われています。
その他の注目ステーブルコイン
Aptosには、上記以外にも多様なステーブルコインが存在しています。例えば、BlackRockの米ドル建てデジタル流動性ファンド「BUIDL」は2024年末に急成長し、2025年6月末時点で時価総額5,380万ドルに達しています。その他にも、Ondoの「USDY」(米国短期国債連動トークン)、Thalaの過剰担保型ステーブルコイン「MOD」、Auro Financeの「USDA」、Mirage Protocolの「mUSD」など、担保形式や用途が異なる多彩な銘柄が共存しています。
低コストな取引手数料が普及を後押し
Aptosの平均取引手数料は0.002ドル未満と非常に低水準であり、ステーブルコインの取引にかかるコストを抑えています。この手数料の安さが利用拡大を促進し、さまざまな担保形態や利回りモデル、利用用途を持つステーブルコインが共存する競争力の高いエコシステムの形成につながっています。
3. 利用者指標(アクティブアドレス数・トランザクション数)


2025年第2四半期(Q2)、Aptosのネットワーク活動は前期の成長から一転して減速しました。平均日次トランザクション数は前期比8.7%減の約320万件、日次アクティブアドレス数は同22.1%減の約90.5万件となりました。なお、Q1には日次アクティブアドレスが120万件と過去最高を記録(前期比+55.8%)、日次トランザクション数も350万件(+7.2%)まで増加していました。
Q2におけるスマートコントラクトのアクティビティでは、バトルRPGゲーム「Defi Cattos」が1日平均33.9万回のインタラクションで首位。次いで、AptosFrameworkコントラクトが14.9万回、Kratos Gamer Network(KGeN)が11.0万回となっています。
注目の実装・ユースケース
Aptosでは、オンチェーン取引体験とデータ処理の体感速度を引き上げる基盤づくりが進んでいます。核となるのが、Aptos LabsとDecibel Foundationが手を組んで開発する取引エンジン「Decibel」と、Aptos LabsとJump Cryptoが共同で進めるデータ可用性向けホットストレージ「Shelby」です。
Decibel
Decibelは、2025年8月5日にAptos上で公開された、スピード・スケール・コンポーザビリティ(他のアプリと自由に組み合わせられる性質)を重視したパーミッションレスのトレーディングエンジンです。スポット(現物)とパーペチュアル(満期のない先物)の両方を、単一のクロスマージン口座で扱えるのが特徴で、Aptosのフレームワーク層に実装されたCLOB(中央指値板)を土台に、注文のマッチングから清算までを完全にオンチェーンで処理します。
目指しているのは、中央集権型取引所(CEX)に匹敵する約定速度とパフォーマンスを、透明性の高いブロックチェーン上で実現することです。だれでも手数料の獲得や清算のサポートに参加できます。
現在はDevnetで稼働しており、メインネット公開は2026年初頭が見込まれています。なお、クロスマージンとは口座内の資産やポジション同士で証拠金を融通し合う仕組み、CLOBは板に出された買い注文・売り注文を照合して取引を成立させる方式のことです。
Shelby
Shelbyは、2025年6月24日に発表されたデータ可用性のためのホットストレージプロトコルです。読み取りに強いリアルタイム系のWeb3アプリを想定し、Web2並みの低レイテンシで1秒未満の読み出しと高いスループットを目指しています。コーディネーション(調整)と決済はAptos上で行われますが、実際のストレージ機能はチェーンに依存しない設計で、ファイバ回線で相互接続されたノードがデータ提供に応じてリアルタイムで報酬を受け取ります。開発者は公式サイトから早期アクセスを申請でき、Devnetは2025年第4四半期に公開予定、その後にパブリックテストネットが続く見通しです。ここで言うデータ可用性は「必要なデータをいつでも正しく取得できる状態」を指し、ホットストレージは即時の読み書きに最適化された高速領域を意味します。チェーン非依存(chain-agnostic)という設計方針により、Aptos以外の環境とも連携しやすいのがポイントです。
最新の基盤技術アップグレード
これらに加えて、Aptosはブロックチェーンの根幹を支える技術アップグレードも積極的に進めています。2024年9月に発表されたRaptrは、従来のコンセンサス方式を進化させた次世代のBFTコンセンサスプロトコルで、1秒間に26万件の取引を800ミリ秒以下の遅延で処理可能としています。Raptrの一部であるBaby Raptrは2025年6月にメインネットに導入され、処理の遅延を20%短縮し、ネットワークの応答速度を大幅に向上させました。
さらに、Aptosは並列実行エンジンのアップグレードとして「Zaptos」と「Shardines」を開発中です。Zaptosは処理の各段階を並行実行できるようにし、実行遅延を40%削減する技術であり、Shardinesはトランザクションを複数の「シャード」に分割して同時処理し、30シャード構成で100万TPSの処理能力を可能にします。これらの技術により、Aptosは将来的に大規模かつ高速な取引プラットフォームの実現に近づいています。
Decibelがオンチェーン取引の“心臓部”をCEX級に近づけ、Shelbyがアプリの読み取り体験をWeb2水準へと押し上げる。さらにRaptrやZaptos、Shardinesといった基盤技術の進化が重なり合うことで、Aptosは速さと安さ、そして透明性を兼ね備えたブロックチェーンとして、多様なユースケースの発展を強力に後押ししています。2025年後半から2026年にかけて、その効果がユーザー体験としてますます実感できるようになるでしょう。
まとめ:Aptosが目指す「グローバルトレーディングエンジン」の現在地
Aptosのエコシステムは着実に進化を続けており、「グローバルトレーディングエンジン」という大きなビジョンに向けて前進しています。分散型金融(DeFi)の成長や革新的なプロトコル、新たなインフラ整備がその土台となっており、特に完全オンチェーンの取引プロトコル「Decibel」の登場は大きな一歩です。
2025年前半には、ステーブルコイン市場の規模が85.9%増加し、時価総額は12億ドルに達しました。主力であるUSDTやUSDCが成長を牽引し、AptosのDeFi全体の利用価値(TVL)は約10億ドルを維持しています。また、実世界資産(RWA)の市場も拡大し、イーサリアムやZKsync Eraに次ぐ3位の規模を誇っています。
技術面では、Aptosの次世代コンセンサスプロトコル「Raptr」の第一段階が稼働し、検証者の処理速度が約20%改善されました。さらに今後はスループットやトランザクションの遅延を大幅に減らすアップグレードが予定されており、ネットワークの性能向上が期待されています。
ユーザー数も堅調で、2024年7月の250万人から12月に1,000万人へと大きく伸び、その勢いを2025年上半期も維持しています。取引手数料は主要なLayer-1ブロックチェーンと比べて10倍から100倍も低く、ユーザーにとって使いやすい環境が整っています。
また、Aptos LabsとJump Cryptoが共同開発したデータの高速処理・保存を実現する「Shelby」も発表され、Web2レベルの読み込み速度でリアルタイム性が求められるWeb3アプリの実現に貢献しています。
このように、Aptosは新技術の導入やユーザー拡大により、理想のグローバルトレーディングエンジンへと着実に近づいています。今後もさらなる進展に注目が集まるでしょう。